紅葉が里に降りてきて、朝夕の冷え込みが深まる10月。茶室では5月から続いた風炉の季節が終わりに近づき、火を客の近くへ寄せる「中置」で名残を惜しみます。道具も傷んだものや侘びた取り合わせを用い、過ぎゆく季節をいとおしむ——一年でもっとも情趣の深い月です。
10月の茶花
杜鵑草ほととぎす
花びらの紫の斑点が鳥のホトトギスの胸模様に似ることからこの名に。晩秋の茶花を代表する野趣ある草花です。
秋明菊しゅうめいぎく
京都の貴船に多いことから「貴船菊」とも呼ばれます。菊の名を持ちますがアネモネの仲間で、清楚な花姿が名残の茶席に映えます。
石蕗つわぶき
つやのある丸い葉と鮮やかな黄色の花。晩秋から初冬にかけて咲き、寂しくなる庭に明るさを添えます。
野紺菊のこんぎく
野辺に咲く淡い青紫の菊。素朴で控えめな風情が、侘びた名残の取り合わせによく合います。
照葉てりは
紅や黄に色づいた木の葉のこと。花に添える枝ものとして、深まりゆく秋を一枝で表します。
嵯峨菊さがぎく
京都・嵯峨野に伝わる細い花びらの菊。すらりと立つ姿に品格があり、重陽から晩秋まで用いられます。
10月の茶道の銘
茶席では、茶杓(ちゃしゃく)やお菓子、掛物などに季節にちなんだ「銘(めい)」をつけて趣を添えます。 ここでは10月・神無月の茶席で使われる茶道の銘を、読み方と意味・由来とともに44種ご紹介します。稽古やお茶会で銘を選ぶ際の参考にどうぞ。
名残なごり
10月を象徴する銘。風炉の季節との別れを惜しむ、茶の湯でもっとも情趣深い言葉のひとつです。
秋深しあきふかし
秋がいよいよ深まったさま。静かな充実と、過ぎゆく寂しさが同居します。
行く秋ゆくあき
過ぎ去ろうとしている秋。名残の心をそのままあらわす銘です。
晩秋ばんしゅう
秋の終わりごろ。冬の気配がすぐそこまで来ています。
秋惜しむあきおしむ
去りゆく秋を惜しむ心。名残の茶席にふさわしい銘です。
寒露かんろ
二十四節気のひとつ(10月8日頃)。草に冷たい露が宿る時季をあらわします。
霜降そうこう
二十四節気のひとつ(10月23日頃)。霜が降りはじめる頃で、冬の入口です。
朝寒あささむ
秋も深まり、朝に感じる冷え込み。日中との寒暖差が身に沁みます。
夜寒よさむ
夜になって感じる寒さ。灯火や炭のあたたかみが恋しくなります。
冷まじすさまじ
秋の末の、身に沁みるような冷たさを言う古語。しみじみとした情感を宿します。
初紅葉はつもみじ
その年に初めて色づいた紅葉。秋の深まりを告げる喜びの銘です。
紅葉もみじ
秋を彩る木々の色づき。掛物・菓子・道具と、あらゆる場面で用いられます。
龍田川たつたがわ
紅葉の名所として古歌に詠まれた奈良の川。紅葉が水面を流れる情景を表す、格の高い銘です。
錦繍きんしゅう
錦の織物のように美しい紅葉の山。絢爛な秋の景色をあらわします。
山装うやまよそおう
紅葉で山が彩られたさま。秋の山を人の装いに見立てた雅な言葉です。
時雨しぐれ
晩秋から初冬にかけ、降ってはやむ通り雨。しっとりとした風情が茶席に好まれます。
秋霖しゅうりん
秋に降り続く長雨。ものさびた趣をたたえます。
朝霧あさぎり
秋の朝、山あいや水辺に立ちこめる霧。景色をやわらかく包みます。
露霜つゆじも
露が凍りかけた、霜になる手前のもの。晩秋ならではの繊細な言葉です。
秋の色あきのいろ
深まる秋の風情そのもの。色づく木々や澄んだ光を含みます。
後の月のちのつき
旧暦9月13日の月(十三夜)。中秋の名月に次ぐ美しい月とされ、日本独自の月見の風習です。
十三夜じゅうさんや
後の月のこと。中秋の名月を見たら十三夜も見るものとされ、片方だけは「片見月」と呼ばれます。
豆名月まめめいげつ
十三夜の別名。枝豆を供える風習にちなみます。
栗名月くりめいげつ
十三夜の別名。栗を供える風習にちなみ、実りの季節を映します。
秋の空あきのそら
高く澄みわたる秋の空。移ろいやすいことでも知られます。
渡り鳥わたりどり
季節とともに海を越えてゆく鳥たち。秋の空の情景です。
落雁らくがん
列をなして舞い降りる雁。同名の干菓子でも親しまれています。
鹿の音しかのね
山に響く牡鹿の声。晩秋の静けさをいっそう深く感じさせます。
残る虫のこるむし
秋の終わりまで鳴きつづける虫。かすかな声に季節の名残を聞きます。
稲刈いなかり
実った稲を刈り取ること。里の秋の代表的な景色です。
豊穣ほうじょう
作物が豊かに実ること。実りへの感謝を込めためでたい銘です。
新米しんまい
その年に収穫されたばかりの米。茶事の懐石でも喜ばれます。
栗くり
秋の実りの代表。菓子の意匠としても親しまれています。
木の実このみ
秋に実る木々の実の総称。素朴な野の恵みをあらわします。
柿かき
軒先に吊るされた柿は、日本の秋を象徴する景色のひとつです。
零余子むかご
山芋のつるにつく小さな球芽。滋味豊かな秋の恵みです。
残菊ざんぎく
重陽を過ぎてなお咲き残る菊。名残の情趣をたたえます。
菊日和きくびより
菊の花が美しく映える、晴れわたった秋の日。
白菊しらぎく
清らかな白の菊。凛とした佇まいが茶席を引き締めます。
中置なかおき
風炉を畳の中央に置き、火を客に近づける晩秋の点前。寒くなる季節への心配りをあらわします。
侘わび
簡素のなかに深い趣を見いだす茶の湯の心。名残の季節にとりわけ響く言葉です。
破れ風炉やれぶろ
傷んだ風炉をあえて用いる名残の趣向。使い込まれたものを慈しむ心をあらわします。
枯淡こたん
飾りけがなく、あっさりとしたなかに深い味わいがあること。晩秋の茶席の気分です。
炉恋しろこいし
寒さが増し、炉の火が待ち遠しくなる気持ち。翌月の炉開きへの期待を込めます。
10月の和菓子
栗蒸羊羹くりむしようかん
栗を混ぜて蒸し上げた羊羹。ほっくりとした食感に秋の実りが詰まっています。
龍田川たつたがわ
きんとんや羊羹で紅葉の流れる川面を表した意匠。晩秋を代表する銘菓です。
木の実このみ
栗や柿など秋の実りを象った練切。野の恵みを目でも楽しみます。
秋の山あきのやま
きんとんで色づいた山肌を表した意匠。ぼかしの配色に紅葉の移ろいを写します。
照葉てりは
色づいた葉を象った菓子。一枚の葉に晩秋のすべてを託します。
初霜はつしも
きんとんや薯蕷に白いそぼろを散らし、初霜の降りた野を表した意匠。冬の近さを告げます。
10月の茶の湯ごよみ
中置の点前なかおきのてまえ
10月は風炉を畳の中央に据える「中置」の月。寒くなってきた客に火を近づけ、水指を遠ざけます。時期や扱いは流派により異なります。
名残の茶事なごりのちゃじ
風炉の季節を締めくくる茶事。前年の茶を使い切り、侘びた道具を取り合わせて、去りゆく季節を惜しみます。
後の月(十三夜)
旧暦9月13日の月見。中秋の名月とあわせて愛でる、日本独自の風習です。月にちなんだ道具組の茶会も開かれます。
口切に向けてくちきりにむけて
11月の炉開き・口切の茶事に向けて準備が進む時季。茶壺の口を切り、新茶を臼で挽いて濃茶とする、茶人の正月がもうすぐです。
茶花も銘も菓子も、地域や流派、その年の気候でずいぶん前後します。 ここに挙げたのはあくまで目安です。目の前の季節のほうを、どうぞ信じてください。
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