残暑がやわらぎ、朝夕に涼風が立ちはじめる9月。重陽の節句に菊を愛で、中秋の名月に月を待ち、彼岸を迎えて秋の深まりを感じます。野には秋の七草が咲きそろい、虫の音が夜を満たす頃。風炉の季節も残りわずかとなり、茶席はしだいに名残の風情を帯びていきます。
9月の茶花
萩はぎ
秋の七草の筆頭。細い枝をしなやかに垂れ、紅紫や白の小花を連ねます。古来より歌に詠まれた風情が愛され、秋の茶花の代表格です。
薄すすき
「尾花(おばな)」とも呼ばれる秋の七草のひとつ。月見のしつらえに欠かせず、穂の揺れる姿が野の秋を映します。
竜胆りんどう
深い青紫の筒状の花。秋の草花のなかでも色が際立ち、晴れた秋空を思わせる凛とした姿です。
水引みずひき
細い花茎に小さな赤い花を点々とつける山野草。上から見ると赤、下から見ると白に見えることから祝儀の水引になぞらえた名です。
葛くず
秋の七草のひとつ。大きな葉と紅紫の花房が野趣に富み、根は葛粉として和菓子にも使われます。
秋海棠しゅうかいどう
うつむき加減に咲く淡紅の花。日陰を好み、しっとりとした風情が秋の茶室によく合います。
9月の茶道の銘
茶席では、茶杓(ちゃしゃく)やお菓子、掛物などに季節にちなんだ「銘(めい)」をつけて趣を添えます。 ここでは9月・長月の茶席で使われる茶道の銘を、読み方と意味・由来とともに47種ご紹介します。稽古やお茶会で銘を選ぶ際の参考にどうぞ。
名月めいげつ
中秋の名月のこと。9月を代表する銘で、一年でもっとも月を賞でる夜を指します。
中秋ちゅうしゅう
旧暦8月15日、秋のなかば。新暦では9月中旬から10月上旬にあたります。
十五夜じゅうごや
中秋の名月の夜。薄と団子を供え、月を待つ日本の秋の行事です。
月見つきみ
月を眺めて賞でること。観月の茶会にもふさわしい銘です。
望月もちづき
満月のこと。欠けるところのない、満ち足りた月を指します。
待宵まつよい
十五夜の前夜(十四夜)。名月を待つ心のときめきを含んだ、情趣ある銘です。
十六夜いざよい
十五夜の翌夜の月。ためらうように少し遅れて出ることから「いざよう」の名がつきました。
立待月たちまちづき
十七夜の月。立って待つうちに出るという意味の、美しい月の呼び名です。
居待月いまちづき
十八夜の月。座って待つほどに出が遅くなる頃をあらわします。
寝待月ねまちづき
十九夜の月。横になって待つほど遅く昇る月のことです。
月影つきかげ
月の光、また月の光が映すもの。澄んだ秋の夜の情景を宿します。
雨月うげつ
名月の夜が雨で月を見られないこと。見えぬ月を想う、日本らしい趣の銘です。
無月むげつ
曇りで名月が見えない夜。雨月とともに、隠れた月を惜しむ心をあらわします。
玉兎ぎょくと
月に住むという伝説の兎。月の異称としても用いられます。
重陽ちょうよう
9月9日の五節句のひとつ。陽の数である九が重なるめでたい日で、菊を用いて長寿を願います。
菊の節句きくのせっく
重陽の別名。菊酒を汲み、菊を飾って邪気を払う行事です。
着せ綿きせわた
重陽の前夜、菊に真綿をかぶせて夜露と香を移し、翌朝その綿で身を拭って長寿を祈った古い風習から。
菊水きくすい
菊の露が滴る谷川の水を飲んで不老長寿を得たという故事から。めでたい銘です。
菊慈童きくじどう
菊の露を飲んで七百年生きたという少年の物語。能の演目としても知られます。
残菊ざんぎく
重陽を過ぎてなお咲き残る菊。名残の情趣をたたえた銘です。
秋草あきくさ
秋に咲く草花の総称。野辺一面の彩りを思わせます。
七草ななくさ
萩・薄・葛・撫子・女郎花・藤袴・桔梗の秋の七草。万葉集の山上憶良の歌に由来します。
初萩はつはぎ
その年に初めて咲いた萩。秋の訪れを告げます。
尾花おばな
薄の穂のこと。獣の尾に見立てた古い呼び名で、秋の七草のひとつです。
葛の葉くずのは
風に翻って白い裏を見せる葛の葉。「裏見」を「恨み」に掛けて古歌にも多く詠まれました。
彼岸花ひがんばな
秋の彼岸のころ、田の畔を彩る鮮やかな紅の花。曼珠沙華とも呼ばれます。
虫の音むしのね
秋の夜を満たす虫の声。静けさのなかの音を愛でる、日本ならではの感性です。
松虫まつむし
「チンチロリン」と澄んだ音で鳴く秋の虫。古くから声を賞でられてきました。
鈴虫すずむし
鈴を振るような音で鳴く秋の虫。涼やかな余韻が茶席の銘にも好まれます。
初雁はつかり
その秋に初めて渡ってくる雁。遠い北から届く、季節の便りです。
雁かり
秋に渡ってくる渡り鳥。列をなして飛ぶ姿が「雁行」として意匠にもなります。
鹿の声しかのこえ
妻を求めて鳴く牡鹿の声。百人一首にも詠まれた、秋の哀愁を象徴する音です。
白露はくろ
二十四節気のひとつ(9月8日頃)。草に白い露が結びはじめる時季をあらわします。
秋分しゅうぶん
二十四節気のひとつ(9月23日頃)。昼と夜の長さがほぼ等しくなる日です。
仲秋ちゅうしゅう
秋三月のまんなか、旧暦8月のこと。秋がもっとも深まりゆく時季を指します。
秋澄むあきすむ
秋になって空気が澄みわたること。景色も音も冴えわたる季節感をあらわします。
水澄むみずすむ
秋、川や池の水が澄みきること。茶席の水にも通じる清らかな銘です。
野分のわき
野の草を分けて吹く秋の暴風。台風の古称で、源氏物語の巻名にもなっています。
露けしつゆけし
露に濡れて湿っぽいさま。転じて、涙がちな心情もあらわす奥深い言葉です。
秋思しゅうし
秋に感じるもの思い。しみじみとした情趣をたたえた銘です。
秋の声あきのこえ
風の音や落葉の音など、秋を感じさせる自然の音のこと。
爽籟そうらい
さわやかな秋風が木々を渡って鳴らす音。涼やかで清々しい響きです。
彼岸ひがん
秋分をはさむ7日間。先祖を敬い、墓参りをする仏教行事の時季です。
稲穂いなほ
たわわに実って頭を垂れる稲。実りの秋の象徴であり、謙虚さの喩えでもあります。
豊年ほうねん
作物がよく実った年。実りへの感謝を込めた、めでたい銘です。
落穂おちぼ
刈り取りのあとに落ちた稲穂。収穫を終えた田の静けさを映します。
案山子かかし
実った田を守って立つ人形。のどかな秋の田園風景をあらわします。
9月の和菓子
着せ綿きせわた
練切で菊の花を象り、上に真綿に見立てた白いそぼろを載せた重陽の菓子。長寿を願う節句の意匠です。
月見団子つきみだんご
十五夜に月へ供える白い団子。薄とともに飾り、実りへの感謝を捧げます。
萩の餅はぎのもち
秋の彼岸にいただく「おはぎ」のこと。萩の花に見立てた粒あんの菓子です。
栗きんとんくりきんとん
栗と砂糖だけで炊き上げ、茶巾で絞った秋の菓子。実りの季節の到来を告げる味わいです。
初雁はつかり
焼き印や意匠で雁の姿を表した菓子。渡り鳥に秋の訪れを託します。
野路の菊のじのきく
きんとんや練切で野に咲く菊を表した意匠。重陽から晩秋にかけて用いられます。
9月の茶の湯ごよみ
重陽の茶会
9月9日、菊にちなんだ道具組や着せ綿の菓子で長寿を祝う茶会。菊の掛物や菊水の銘が映える趣向です。
観月の茶会かんげつのちゃかい
中秋の名月にあわせて開かれる茶会。月を望む席のしつらえや、薄・団子の飾りつけで秋の夜を楽しみます。
秋の彼岸
秋分をはさむ7日間。先祖を偲び、萩の餅を供える時季。茶席でも静かな趣向が好まれます。
風炉の名残へ
5月から続いた風炉の季節も終盤へ。11月の炉開きに向けて、しだいに名残の風情を帯びていきます。9月下旬から10月にかけては、火を客に近づける「中置(なかおき)」の点前に移ることがあります(時期や扱いは流派により異なります)。
※ 茶花・銘・菓子の季節は地域や流派、その年の気候によって前後します。ひとつの目安としてお楽しみください。
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