茶の湯にとって、11月は一年の始まりです。畳を切った炉に初めて火を入れる「炉開き」、そして茶壺の封を切り、その年の新茶を初めて味わう「口切の茶事」。この二つが重なる11月は「茶人の正月」と呼ばれ、もっとも改まった月とされています。亥の子餅をいただき、椿がほころびはじめる——あらたまった気持ちで冬を迎えます。
11月の茶花
西王母せいおうぼ
淡い桃色の早咲きの椿。中国の伝説の仙女にちなむ名で、炉開きの席にふさわしい格を備えています。
侘助わびすけ
小ぶりで慎ましい花を咲かせる椿。開ききらない姿が茶の湯の心にかない、冬の茶花を代表します。
山茶花さざんか
椿によく似た花で、花びらが一枚ずつ散るのが見分けどころ。初冬の庭を明るく彩ります。
錦木にしきぎ
枝に翼状の張り出しを持ち、秋に紅葉と赤い実をつける木。枝ものとして花に添え、初冬の風情を出します。
磯菊いそぎく
海辺の岩場に自生する野菊。葉の縁が白く縁取られ、黄色の小花を密に咲かせます。
藪柑子やぶこうじ
低く茂る常緑の小低木で、冬に赤い実をつけます。十両とも呼ばれ、めでたい取り合わせにも用いられます。
11月の茶道の銘
茶席では、茶杓(ちゃしゃく)やお菓子、掛物などに季節にちなんだ「銘(めい)」をつけて趣を添えます。 ここでは11月・霜月の茶席で使われる茶道の銘を、読み方と意味・由来とともに37種ご紹介します。稽古やお茶会で銘を選ぶ際の参考にどうぞ。
炉開きろびらき
その年に初めて炉に火を入れる行事。茶の湯の一年が始まる、もっとも重要な節目です。
開炉かいろ
炉開きと同じく、炉を開くこと。あらたまった気持ちを込めた銘です。
口切くちきり
初夏に摘んで壺に詰めた新茶の封を切ること。茶人にとっての正月にあたる、最も改まった茶事です。
初炉はつろ
その年最初の炉。炭の香りと湯の音があらたまって感じられます。
茶壺ちゃつぼ
新茶を詰めて熟成させる壺。口切の主役であり、名物とされるものも多くあります。
亥の子いのこ
旧暦10月の亥の日に無病息災を願う行事。この日に炉を開く習わしがあり、亥の子餅をいただきます。
玄猪げんちょ
亥の子の別名。宮中や武家で行われた、亥の日の儀式にちなみます。
立冬りっとう
二十四節気のひとつ(11月7日頃)。暦の上で冬が始まる日です。
小雪しょうせつ
二十四節気のひとつ(11月22日頃)。わずかに雪が降りはじめる時季をあらわします。
初冬しょとう
冬の初め。まだ寒さは浅く、秋の名残をとどめています。
冬めくふゆめく
あたりがしだいに冬らしくなってくること。
小春こはる
初冬の、春のように穏やかであたたかい日和。「小春日和」として親しまれています。
冬支度ふゆじたく
冬に備えて整えること。炉を開き、暖を用意する茶室の営みにも重なります。
霜月しもつき
11月の異名。霜が降りる月であることに由来します。
初霜はつしも
その冬に初めて降りた霜。草木を白く覆う、冬の到来のしるしです。
初時雨はつしぐれ
その年初めての時雨。降ってはやむ通り雨に、冬の入口を感じます。
霜夜しもよ
霜の降りる寒い夜。炉の火のあたたかさがひときわ有難く思われます。
木枯こがらし
晩秋から初冬に吹く冷たい風。木々の葉を落とし、冬を連れてきます。
落葉おちば
散り敷いた木の葉。露地に舞う落葉も、この季節の茶席の景色です。
散紅葉ちりもみじ
散り敷かれた紅葉。盛りを過ぎたあとの、しみじみとした美しさをあらわします。
山眠るやまねむる
冬に入り、静まりかえった山のさま。荒涼としたなかに安らぎを感じさせます。
初氷はつごおり
その冬に初めて張った氷。朝の水面に見つける小さな驚きです。
冬の月ふゆのつき
澄みきった冬の空にかかる月。冴え冴えとした光が印象的です。
千鳥ちどり
水辺に群れる小鳥。冬の情景を表す銘として、意匠にも多く用いられます。
枯野かれの
草の枯れた冬の野原。侘びた景色に、茶の湯の心が重なります。
埋火うずみび
灰に埋めて保つ炭火。静かに燃え続ける火に、冬のぬくもりを託します。
炭すみ
炉に入れる炭。炉の季節は炭点前の趣もいっそう深まります。
火恋しひこいし
寒くなり、火のあたたかさが恋しくなること。炉開きの季節ならではの銘です。
松風まつかぜ
釜の湯が煮えたつ音を松林を渡る風にたとえた言葉。茶室で最も愛される音です。
七五三しちごさん
11月15日、子どもの成長を祝う行事。晴れやかな気分を映します。
新嘗祭にいなめさい
11月23日、その年の実りを神に供え感謝する宮中行事。各地の神社でも行われます。
酉の市とりのいち
11月の酉の日に立つ市。熊手を求めて商売繁盛を願う、初冬の風物詩です。
神迎かみむかえ
出雲に集った神々が各地へ帰ること。10月の「神無月」に対応する言い伝えです。
初霰はつあられ
その冬初めて降る霰。ぱらぱらと音を立てて、冬の訪れを告げます。
冬構ふゆがまえ
冬に備えて住まいや庭を整えること。露地の手入れにも通じます。
無事ぶじ
何事もなく穏やかであること。禅語としても知られ、新しい一年の始まりにふさわしい銘です。
冬ざれふゆざれ
草木が枯れ、荒涼とした冬の景色。何もないなかに趣を見いだす、侘びの心に通じます。
11月の和菓子
亥の子餅いのこもち
亥の日にいただく餅。猪の子(うりぼう)に見立てた姿で、無病息災と子孫繁栄を願います。炉開きの菓子の代表です。
織部饅頭おりべまんじゅう
緑の釉薬を思わせる色使いに、織部焼の文様を焼き印で表した薯蕷饅頭。炉開きの定番として親しまれています。
口切くちきり
茶壺の封を切る口切にちなんだ意匠の菓子。あらたまった席にふさわしい趣向です。
初霜はつしも
白いそぼろやすり蜜で霜の降りたさまを表した菓子。冬の到来を目で感じさせます。
山茶花さざんか
練切で初冬に咲く山茶花を写した意匠。ほのかな紅色が寒さのなかに映えます。
銀杏いちょう
黄金色に色づいた銀杏の葉を象った菓子。晩秋から初冬の彩りを添えます。
11月の茶の湯ごよみ
炉開きろびらき
5月から使ってきた風炉を仕舞い、畳を切った炉に初めて火を入れます。茶の湯の一年が始まる日で、亥の日に行う習わしがあります(日取りは流派や社中により異なります)。
口切の茶事くちきりのちゃじ
初夏に摘んで茶壺に詰め、熟成させた新茶の封を切る、一年でもっとも改まった茶事。その場で茶臼にかけて挽いた濃茶をいただきます。
亥の子餅と玄猪
旧暦10月の亥の日に、無病息災を願って亥の子餅をいただく行事。この日に炉を開くのが古くからの習わしとされています。
新嘗祭・七五三
11月23日の新嘗祭は実りへの感謝を捧げる行事。15日の七五三とともに、晴れやかな取り合わせの茶会も開かれます。
茶花も銘も菓子も、地域や流派、その年の気候でずいぶん前後します。 ここに挙げたのはあくまで目安です。目の前の季節のほうを、どうぞ信じてください。
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